「緑内障の目薬は入浴前に」の根拠をたどる|添付文書に書いてあること、研究で分かっていること

「入浴前に点眼」の根拠をたどる。添付文書に書いてあること、研究で分かっていること 服薬指導

「緑内障の目薬は、お風呂の前にさすといいですよ」

私がこの話を知ったのは、患者さんからでした。目の周りの黒ずみを相談されたときには、私自身も入浴前の点眼をすすめていました。

では、この話の根拠はどこにあるのか。添付文書と研究にさかのぼって、確かめ直しました。

この記事の結論

  • まぶたや皮膚についた液は、入浴するかどうかに関係なく、すぐにふき取る。添付文書に書いてあるのは、このことです
  • ビマトプロストを使った研究では、ふき取った目で、まつ毛の伸びと、目頭の下方の皮膚の色素沈着が少なかったと報告されています
  • 入浴や洗顔のタイミングと、上まぶたのくぼみ・虹彩(茶目の部分)の色への効果は、今回確かめた資料からは判断できません

この記事に出てくる会話は、説明のために構成したものです。

黒ずみが出るのは、どの目薬か

私が最初に確かめたかったのは、次のことです。

ハリネズミ後輩
ハリネズミ後輩

ミケランLAでも、目の周りが黒ずんだり、まつ毛が伸びたりしますか?

ラッコ先輩
ラッコ先輩

ミケランLAの添付文書には、その記載がありません。黒ずみやまつ毛の変化は、PG関連薬(プロスタグランジン関連薬)の添付文書に載っている副作用です。

たとえばキサラタン(ラタノプロスト)の添付文書には、眼瞼色素沈着、睫毛の異常(睫毛が濃く、太く、長くなる)、眼瞼溝深化が載っています。眼瞼溝深化は、上まぶたがくぼむ変化のことです。

ここで、名前の似た2つの目薬に気をつけます。

ミケランLAとミケルナは、中身が違います

ミケランLAの成分は、カルテオロールです。添付文書に、眼瞼色素沈着や睫毛の異常の記載はありません。

ミケルナ配合点眼液は、カルテオロールとラタノプロストの配合剤です。添付文書に、睫毛の異常、眼瞼色素沈着、眼瞼溝深化の記載があります。

ミケランLAの添付文書にも、眼瞼炎や眼瞼発赤は載っています。患者さんが「まぶたの色が変わった」と言ったときは、赤みなのか黒ずみなのかを聞き分けます。

添付文書に書いてあるのは「すぐにふき取る」

ハリネズミ後輩
ハリネズミ後輩

入浴前に点眼するといい、と聞いたことがあります。

ラッコ先輩
ラッコ先輩

私も以前、患者さんにそう伝えていました。あらためて添付文書を読むと、書いてあるのは別のことでした。

キサラタンの添付文書の「薬剤交付時の注意」には、患者さんへ指導することとして、次の一文があります。

点眼のとき、液が眼瞼皮膚等についた場合には、すぐにふき取ること。

入浴や洗顔のタイミングについては、書かれていません。

ここは分けて考えます。「すぐにふき取る」と「あとで入浴して洗顔する」は、同じことではありません。入浴前に点眼する場合でも、ついた液をすぐにふき取ることは省けません。

ふき取りの研究で分かっていること

ふき取りの効果を確かめた研究があります(Centofanti 2006)。

ビマトプロスト0.03%を両目に点眼し、片方の目だけ、点眼のときと点眼のあとに吸収パッドでふき取りました。4か月間続けて、左右の目を比べています。

見たところふき取った目では
まつ毛の伸び少なかった
目頭の下方の皮膚の色素沈着少なかった
目尻の下方の皮膚の色素沈着両目で同程度だった
皮膚の毛が増える変化両目で同程度だった
ハリネズミ後輩
ハリネズミ後輩

ふき取れば全部防げる、というわけではないんですね。

ラッコ先輩
ラッコ先輩

そうなんです。この研究で少なかったのは、一部の変化でした。

この研究を読むときは、3つの点に気をつけます。

  • 使われた薬はビマトプロストです。ほかの成分でも同じ結果になるかは、この研究からは分かりません
  • 確かめたのは、点眼のときのふき取りです。入浴時の洗顔を確かめた研究ではありません
  • 参加した人数は、公開されている抄録には書かれていません

「ふき取れば予防できます」と言い切ると、研究の結果より強い説明になります。どの薬で、どの変化が少なかったのかを、そのまま伝えます。

この研究からは判断できないこと

ふき取りの研究が調べたのは、まつ毛と、目の周りの皮膚でした。

上まぶたのくぼみと、虹彩の色の変化は、調べる項目に入っていません。ふき取りでこれらを防げるかどうかは、この研究からは判断できません。

入浴や洗顔までの時間については、今回確認したキサラタンの添付文書と、Centofanti 2006の抄録には記載されていません。

上まぶたのくぼみ:成分ごとの報告

日本人250人を対象に、5つの成分でくぼみの頻度を調べた研究があります(Inoue 2013)。片目に3か月を超えて点眼した人の写真を、3人の眼科医が左右見比べて判定しました。

成分写真での判定本人の自覚
ビマトプロスト60.0%40.0%
トラボプロスト50.0%24.0%
ラタノプロスト24.0%12.0%
タフルプロスト18.0%10.0%
ウノプロストン8.0%10.0%

これは、この研究で観察された割合です。条件をそろえて薬を割りつけて比べた結果ではなく、一人ひとりのなりやすさや、薬の順位を示すものではありません。

抄録では、ビマトプロストは、ラタノプロスト、タフルプロスト、ウノプロストンより有意に多かったとされています。

虹彩の色の変化は、中止後も残ることがある

キサラタンの添付文書には、虹彩の色素沈着について「投与中止後消失しないことが報告されている」と書かれています。投与にあたって、患者さんへ十分説明しておくことも求められています。

まぶたの黒ずみは、成分で差があるのか

ハリネズミ後輩
ハリネズミ後輩

まぶたの黒ずみも、成分によって差がありますか?

ラッコ先輩
ラッコ先輩

そこは、研究によって結果が分かれています。

5つの成分を使っている250人の写真を医師が判定した研究では、成分の間に有意な差は認められませんでした。一方で、同じ研究のアンケートでは、本人の自覚はトラボプロストとビマトプロストで、ほかの3成分より有意に多いという結果でした(Eye 2012)。

別の研究では、12か月以内に目の周りの色素沈着が見つかった割合は、ラタノプロストで1%、ビマトプロストで6%でした(Sharpe 2007)。こちらは、過去の記録をさかのぼって調べた研究です。

成分によって指導を変える根拠は、今回の資料からは得られませんでした。なお、「液が眼瞼皮膚等についた場合には、すぐにふき取ること」という一文は、ミケルナの添付文書にもあります。

見た目の変化を相談されたら

自己判断で点眼をやめないよう伝えます。そのうえで、処方した先生に相談してもらいます。

先生に伝えるなら、こう言う

見た目の変化を相談されたときの、伝え方の一例です。

「◯◯さんですが、点眼を始めてから上まぶたのくぼみが気になる、とのご相談がありました。点眼は続けておられます。ご本人が見た目の変化を気にされておりますので、ご相談させていただきました。」

「点眼は続けておられます」の一文は、ご本人に確認できた場合に入れます。

私の伝え方は、こう変わりました

以前の私は、黒ずみを相談されたとき、入浴の前に点眼するよう伝えていました。

これからは、まずこう伝えます。

「点眼のとき、まぶたについた液は、すぐにふき取ってください。」

そのうえで、入浴前や洗顔前の点眼も、相談されたときにはこれからも伝えていくつもりです。患者さんにとって、いちばん実践しやすい方法だと思っているからです。

ただし、これは私の考えです。入浴前や洗顔前の点眼そのものについては、今回確認したキサラタンの添付文書と、Centofanti 2006の抄録には記載されていません。ふき取りの代わりではなく、ふき取りに添えるものとして伝えます。

今回調べ直して、どの薬で起こる副作用なのかが明確になり、対応の仕方もしっかり学べました。

まとめ

明日の窓口で使えること

  • 黒ずみやまつ毛の変化は、PG関連薬の添付文書に載っている副作用。ミケランLAの添付文書には記載がなく、ミケルナの添付文書には記載がある
  • 添付文書に書いてあるのは「ついた液は、すぐにふき取ること」。入浴前に点眼する場合でも、これは省けない
  • ビマトプロストの研究では、ふき取った目で、まつ毛の伸びと、目頭の下方の皮膚の色素沈着が少なかった
  • 入浴のタイミングと、くぼみ・虹彩の色への効果は、今回の資料からは判断できない
  • 見た目の変化を相談されたら、自己判断でやめないよう伝えて、処方医へ

出典

添付文書は、PMDAに掲載されている電子添文で確認しました。

論文は、公開されている抄録の範囲で確認しました。本文は確認していません。

お読みいただくにあたって

この記事は運営者が調べてまとめたものです。実際の業務で判断される際は、必ず最新の添付文書でご確認ください。

誤りを見つけられた場合は、お問い合わせページよりご連絡ください。すぐに訂正いたします。

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